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広島地方裁判所 昭和52年(行ウ)7号 判決

三原市本町一四八一

原告

清水康彦

右訴訟代理人弁護士

内堀正治

三原市宮沖町二四四

被告

三原税務署長

仁尾徹

右指定代理人検事

一志泰滋

同大蔵事務官

小川儀市

大石祥二郎

同訟務専門職

小下馨

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五一年五月一四日付でした原告の昭和四八年分所得税の再更正処分および過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書地において歯科医業を営み、また、昭和四六年六月三〇日まで三原市に本店を有する訴外清水自動車株式会社の代表取締役であつた。

2  原告は、昭和四九年三月一五日、被告に対し昭和四八年分所得税につき別紙昭和四八年分課税処分表の確定申告額欄記載のとおり確定申告をし、さらに、昭和五一年二月一四日、原告の貸金所得を事業所得として前記清水自動車株式会社に対する貸倒金八〇八万九、〇〇〇円(以下、本件貸倒損失という)を必要経費に算入し、別紙貸金所得内訳表の原告主張額欄記載のとおり貸金所得の損失金額を八五五万一、二一七円として損益通算したうえ、前記課税処分表の修正申告額欄記載のとおり修正申告をしたところ、被告は、同年五月七日、同表更正額欄記載のとおり更正処分をし、次いで同月一四日、原告の前記貸金所得を雑所得であるとして、本件貸倒損失八〇八万九、〇〇〇円の必要経費算入と貸金所得の損失金額八五五万一、二一七円の損益通算とを否定して、同表再更正額欄記載のとおり再更正処分および過少申告加算税賦課決定処分(以下、本件再更正処分等という。)をした。

3  そこで原告は、同年五月一九日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、同年一二月二一日これを棄却するとの裁決をした。

4  しかし、被告の本件再更正処分等は、所得税の解釈を誤つたものであるから違法である。

5  よつて、本件再更正処分等の取消を求めるため本訴に及んだ。

二  請求原因に対する被告の認否

請求原因1、2、3の各事実は認め、同4の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告の貸金所得は、後記のとおり事業所得ではなく雑所得である。

2  すなわち

(一) 原告の金銭貸付先は、原告が出資している同族会社で、自動車修理業を営む訴外清水自動車株式会社、建築業を営む訴外株式会社竹本工務店、バーを営む訴外有限会社ニユー幾、右ニユー幾の代表者訴外大藤幾子が九割の出資をしている映画館を営む訴外有限会社高南および右竹本工務店の取引先で塗装業を営む訴外盛影武雄の五件のみであり、その貸付先は、原告と特殊の関係にある者に限られていた。

(二) 原告は、不特定多数の者を相手に金銭貸付けを行うような場所的設備を備えておらず、広告宣伝をしておらず、また、関係官庁への届出および帳簿書類の備付けをしていなかつた。

(三) 原告は、貸付先と金銭貸借に関する契約書を交わしておらず、また、担保の設定等の貸付金の保全措置を講じていなかつた。

(四) 原告が貸付金に対し昭和四七年までに利息を受け取つたのは、貸付先五件のうち訴外有限会社高南からのみで、しかもその利率は年七分前後の低率であり、その他の貸付先からは、利息を受け取つていなかつた。

(五) 以上を総合すると、原告の金銭貸付行為は、営利を目的とした不特定多数の者を相手とする継続的な経済的行為とは認められず、原告との個人的な関係に基づく貸付行為に過ぎない。なお、これらの貸付先に対する融資が、原告の歯科医業の遂行上必要であると認められれば、原告の貸金所得が事業所得となる余地はあるが、これらの貸付けが原告の歯科医業の遂行上必要であると認められないことは明らかである。従つて、原告の貸金所得は、所得税法二七条一項に規定する事業所得には該当せず、同法三五条一項に規定する雑所得に該当するものである。

3  しかも、所得税法五一条四項によれば、雑所得の基因となる資産の損失の金額は、雑所得の金額を限度として、雑所得の計算上、必要経費に算入することができるが、本件の場合、別紙貸金所得内訳表の被告主張額欄記載のとおり本件貸倒損失八〇八万九、〇〇〇円を必要経費に算入する前の貸金の所得金額がすでに四六万二、二一七円の損失となつているので、右貸倒損失を必要経費に算入することはできない。

また、所得税法六九条一項によれば、雑所得の計算上生じた損失の金額は損益通算できないので、原告の貸金所得の金額の計算上生じた損失四六万二、二一七円を他の所得と損益通算することもできない。

4  そこで被告が、原告の貸金所得を雑所得として、本件貸倒損失の必要経費算入と原告の貸金所得による損失金額の損益通算を否定してなした本件再更正処分等は適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否

被告の主張のうち、2の(一)ないし(四)の各事実は認め、その余の主張はすべて争う。

第三証拠

被告は、乙第一号証の一、二、第二号証の一ないし五、第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六、第七号証の各一、二を提出し、原告は乙号各証の成立をすべて認めた。

理由

一  請求原因1、2、3および被告の主張2の(一)ないし(四)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の貸金所得が事業所得あるいは雑所得のいずれに該当するかについて判断する。

まず、右貸金所得が事業所得に当ると言い得るためには、その所得が所定の事業から生ずるものでなければならない(所得税法二七条一項参照)が、右事業の範囲を規定する同法施行令六三条の趣旨に鑑みると、右事業とは、対価を得て継続的に行なう事業、換言すれば、営利を目的とする継続的行為であつて社会通念上事業と認められるものを指称すると解される。そこで、原告の金銭貸付行為が右事業に該当するか否かについては、社会通念に従い、貸付行為の目的、貸付先との関係、営利性や反覆継続性の有無ならびに程度、人的、物的設備の有無ならびに規模その他諸般の事情を総合的に検討して判定すべきである。

ところで、前記争いのない事実によると、原告は不特定多数の者に金銭貸付けを行なう設備を持たず、広告宣伝をせず、関係官庁への届出も帳簿類の備付けもなかったのであり、その貸付先は原告と特殊な関係のあるもの五件に限られ、しかも、貸付先との間で、金銭貸借に関する契約書の交換も担保の設定等貸付金保全の措置を講ずることもなく、そのうえ、昭和四七年までに右貸付先から利息を収受したのは一件のみというのであるから、原告の金銭貸付行為は前記「対価を得て継続的に行なう事業」と言うを得ず、所得税法上の事業に当らないことは明らかである。

また、原告の金銭貸付行為が、原告の歯科医業の遂行上、右事業に附随して行われたものと認めるべき証拠もないから、原告の貸金所得は事業所得には該当しないものと解さざるを得ない。

そして、原告の貸金所得が、事業所得の他、所得税法二三条ないし二六条、二八条ないし三四条所定の各所得類型に当らないことは法文上明らかであるから、結局、右貸金所得は雑所得であるとしなければならない。

三  すると、本件貸倒損失八〇八万九、〇〇〇円を必要経費に算入する前に、貸金所得がすでに四六万二、二一七円の損失となつている本件においては、右貸倒損失金額を必要経費に算入する余地はなく(所得税法五一条四項参照)、さらに、雑所得の金額の計算上生じた損失の金額を損益通算することは許されないから(同法六九条一項参照)、本件貸倒損失の必要経費算入と原告の貸金所得による損失金額の損益通算を否定してなされた本件再更正処分等に違法な点はないというべきである。

四  よつて、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 森田富人 裁判官 大谷禎男 裁判長裁判官中原恒雄は、転勤のため署名押印できない。裁判官 森田富人)

昭和四八年分課税処分表

〈省略〉

〈省略〉

(注)1 △印は損失の金額又は還付の額に相当する税額の表示である。

2 過少申告加算税の基礎となる税額及び納付すべき税額は、6の申告納税額三、六六二、八〇〇円と7の還付すべき税額二一一、六八四円の合計額三、八七四、四〇〇円(百円未満切捨て)である。

3 納付すべき過少申告加算税はの合計である。

貸金所得内訳表

〈省略〉

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